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野田たけしはこう思う
 地球環境を考える6
        対談:野田たけし&天波博文(ミュージシャン・百姓市起株式会社代表)
             コーディネート 本武三郎氏(NPO法人環境経済研究所・株式会社ブルーアース21代表)
 
2005.07.21 
 

本武 今回は、ミュージシャンであり約20年前から有機野菜の生産および流通に取り組み、地域おこし・街づくりなどにも多彩なアイデアを発揮しておいでの天波博文さんをお迎えし、これからの農業や農業と環境の関わりについて話を進めていきたいと思います。
 天波さんは東京・立川の出身で、若い頃東京で芸能活動をされていましたが、不規則な生活で体調を壊され、子供さんが喘息だったこともあり、富士山麓に移住。自然の中でご自身と子供さんの体調が回復したことで、人と自然との共生を考えられるようになったそうです。現在は、芦北町に居を構えて地元や近隣地域の農家の皆さんと有機野菜生産・販売に努められています。
天波 ご紹介いただきました天波です。一口に有機野菜といいますが、安心・安全野菜の代名詞となりつつあった「有機野菜」のブランド化が進むにつれ、一時期、低農薬野菜・減化学肥料野菜・無農薬野菜など紛らわしい商品表示が横行し、10年前に環境保全をも視野に入れた「有機農産物基準法」が定められました。しかし、法施行後に有機農産物指定を受けた農産物の中でも違反物がある現状があります。
 現在の流通ルートにおいて実際は「農法」は表に出ず、農品(農業生産物)が世の中に出ています。昨今は、「顔の見える流通」と言って「どこどこの誰々生産」などの商品タグやシールなどを付けたものも出てきていますが、まだまだ生産者の「顔が見える」ものは少ないと思います。これら「顔の見える」農産物は消費者の安心・安全を求めるニーズの高まりに応えたものですが、指定を受けた農産物も違反があるのですから、真に「顔の見える」農産物ということをもっと考える必要があるとも思います。
 私が有機野菜の流通を始めた頃は、一般には土付きのニンジンや曲がっているキュウリなど見向きもされませんでした。そこで「宅配」というシステムを考えついたのですが、当初会員数はわずか50名ほどでした。それが5年後には会員数千数十名にまで成長しました。良いものを欲している人は多数いるということなのですが、ここで需要と供給のバランスが崩れてしまい、供給を確保するために近隣から無農薬ではない野菜を調達してしまう事態に陥ったのです。本末転倒なことをしてしまい、本来目指すべき道を誤らないために、「限定700世帯との契約」という形を打ち出しました。本当の有機野菜を流通のためにはそれが限界であり、会員の皆さんにも納得していただけました。
 安全・安心な食物を求める消費者ニーズに応えていくために、有機栽培に取り組む農家をどうやって増やしていくか、それも課題だと思っています。
野田 お話をうかがい、改めてよくやってこられたと感心しています。日本は戦後長い間食糧難の状態で、農業においては量的確保が最大のテーマでした。そのために化学肥料等が取り入れられ、生産量を上げることに力を注いでいたと思います。また、消費者の視点は価格にあり、生産者の視点は収入の確保にありました。その行き過ぎが結果的に人の健康に影響を及ぼし、地球環境にも影響してきたと言えるかもしれません。近年、ようやくこれまでの在り方を反省する気運が生まれてきたと思います。いち早くそのことに取り組み、実践されてきたことに敬意を表したいと思います。
 取り組む農家をいかに増やしていくかという課題があるとのことでしたが、実践して仲間を募るには継続性が必要ですし、枠組みも必要になってくるでしょう。例えば昨年は非常に台風上陸が多かったですし、災害時にもいかに供給を確保するか、この仕組みをどのようなネットワークで安定させるかが大切になってくると思いました。有機栽培に取り組む組合をいくつも作ったり、社会の中でネットワーク、仕組みを安定させていくことも重要だと感じます。
 日本、特に熊本は水俣病の経験があり、環境保全や食の安全性の意識が高いと思います。京都議定書が発効し、世界的に環境への関心が高まる中、環境と食の安全供給を結びつけていければ、大きな社会的広がりを生むのではないでしょうか。
本武 私としては、無農薬農業、有機栽培をどのように国の仕組みの中に取り込むかを考える必要もあると思います。制度や方針、政策にいかに融合させていくかも考える必要があるのではないでしょうか。
野田 一地域の農協で取り組むと、付加価値が付き、ブランド化することもできてくると思います。消費者の意識も価格ではなくブランド、付加価値を評価し始めていますし、価格が高くても付加価値があれば売れるという傾向にかわってきているように感じます。これが連動していけば、大きな市場転換か可能になってくるのではないでしょうか。
天波 有機栽培が広がる時にビジネス分野で広がるということもありますが、私としては文化の礎として農業を再築したいと考えており、文化としての農業を社会に組み込めないかと思います。文化庁が農業を扱う、あるいは学校から広めるなど、農業と文化のつながりも視野に入れられないかと思っています。
 一昨年日本有機能研が発表したJAS認定農家は全国で4402名。そのうち744名が熊本県の生産者で全体の17%という高い割合を占めています。そもそも有機栽培は熊本が発祥と言われ、JA清和やJA崎津は昭和35年から有機栽培に取り組んできていますし、これは全国にも誇れることです。しかし、熊本の人でその事実を知らない人も多い。これは文化のパイプがつながっていないためだと思いますし、こういったこと、文化として取り組んでいる人がいることを発信していくべきだと思います。
野田
 最近、地産地消ということが言われます。昔は地域文化と食文化は不可分で、地域には地域の食文化があり地域文化がありました。社会の発達や食物輸入など様々な事由によって食の大衆化が進み、地域の食文化が薄れてきたということはあるでしょう。地産地消ということは、もう一度地域の文化を見直そうということでもあると思えます。米を作ることと自然との関わり、安全性などを地域とどう結びつけていくか、そこもポイントになるでしょう。
 さらに、昔は米と言えばアジア圏の食文化でしたが、アメリカやヨーロッパでの日本食ブームなど米食文化は世界的に広がり、米の生産量も世界的に増えています。そのような中で、日本の文化に対する理解や興味も芽生えているのではないでしょうか。商品の需給だけでなく、文化と結びつけていく流れが出てきているように感じます。
 それがさらに、安全な有機栽培農産物という付加価値を求めることになってくると思いますし、真に中身を伴った(付加価値のある)ものが海外にも流通していくことになってくるのではないかと思います。
天波 先ほど少しお話したのですが、有機野菜の生産農家数は限りがあり、その農家が生産している農産物にも限りがあります。私はそれらの農産物を、次代を担う子供や求めている人(例えば病気療養している人など)に届けたいと思っています。しかし、病院などでの食事に有機野菜を導入しても価格的に折り合っていかず、途中で断念されることも少なくありません。
 こういったことを推進するようなシステムを、国にも考えていっていただけないかと思います。
野田 教育の現場では、現在「食育」という食を考える教育に取り組み始めています。欧米化・外食化といった食生活習慣の変化にともない、肥満や糖尿病の増加など健康への影響が出てきており、私たちは「食」について考える習慣を身につけ、生涯を通じて健全で安心な食生活を実現することができるよう学ぶ必要が出てきています。そこで、食品の安全性、食事と疾病との関係、食品の栄養特性やその組み合わせ方、食文化、地域固有の食材等を適切に理解するために必要な全国的な情報提供活動や地域における実践活動等を行う「食育」を推進していくことが重要となってきています。特に、これからの日本を担っていく子供たちに対しては、この「食育」を実践していくことが非常に大切です。
 このような取り組みの中で、有機栽培の食物を採用していくことも必要であると思いますし、その生産過程を伝えていくことも大切になってくるでしょう。それが日本農業という文化、あるいは地域文化を伝えていくことにもなると思います。
本武 子供たちの平均体重・身長の推移は発表になっていますが、子供のかかる病気についての調査などは公表されていないのではないでしょうか。食生活によってどの年代にどのような弊害が起こってくるかなどの調査も公表していき、食に対する意識の向上を図ることも必要であると思います。
野田 そういったことも含めて「食育」を推進していくことが必要でしょう。私も有機栽培をどのように国が支援し、社会の中に組み込んでいくかということも配慮し、よりよい食の提供・生産に働きかけていければと思います。


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